東京高等裁判所 昭和26年(ネ)692号 判決
被控訴人等は栃木県塩谷郡泉村大字平野四十七番、田二反十四歩及び同所四十八番、田一反七畝二十八歩の農地につき、農地調整法による賃貸借契約回復協議請求権のないことを確認する。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審共これを両分し、その一を控訴人その余を被控訴人等の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人等は主文掲記の農地につき、自作農創設特別措置法による買収請求権及び農地調整法による賃貸借契約回復協議請求権のないことを確認する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の連帯負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、「被控訴人等は昭和十五年二月控訴人又はその子肥後朋友と被控訴人船山吉佐又はその子である被控訴人船山三男との間に成立した本件農地に関する小作契約に基いて耕作権を有するものである。右小作契約はその後昭和二十二年三月頃合意の上解除され、一応小作人から農地を地主に返還されたことは事実であるが、右解除契約は地主から小作人に対し、代替の山林を与えることを停止条件としたものであつて、地主である控訴人は右条件を履行しなかつたばかりでなく、随意条件を停止条件としたものであるから、右解除契約は本来無効であつて、小作契約はなお存続中である。控訴人は昭和二十四年三月三十日成立した示談契約(乙第六号証)により右事実を確認し、その頃本件農地を被控訴人等に引き渡したものである。」と述べ、控訴代理人において、「被控訴人等主張の小作契約は、昭和二十年十月頃離作料として当時被控訴人等が小作していた田畑全部に対する昭和二十一年度の小作料米二十六俵及び金二十一円を免除して合意解除することとし、円満に本件農地の返還を受けたのであつて、右解除契約が被控訴人等主張のような停止条件附であつたことは否認する。」と述べた外、いずれも原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
主文掲記の農地が控訴人の所有にかかること及び被控訴人等は、昭和十五年二月以降控訴人又はその子肥後朋友と被控訴人又はその子三男との間に成立した小作契約に基き耕作権を有していたことは、当事者間に争のないところである。控訴人は右小作契約は昭和二十年十月頃合意解約されたものであると主張し、被控訴人等は右小作契約は現在なお存続するものであると争うので、この点について検討するに、成立に争のない甲第二号証の一、二、同第四号証の一、同第五号証、同第九号証の二、三、同第十号証、同第十五号証の二、乙第五号証の二、公印の成立につき争のないことによつて真正に成立したものと認めることのできる甲第三号証の三、同第四号証の三、四、当裁判所が真正に成立したと認める同第二号証の三、同第四号証の二及び原審証人二戸為平の証言を綜合すれば、昭和二十年十月控訴人は被控訴人等協議の上、控訴人は離作料として被控訴人等に対し本件農地の外控訴人が被控訴人等に小作させていた農地に対する昭和二十一年度分の小作料(小作米二十六俵及び畑小作金二十一円)を全免して本件農地に関する小作契約を合意解約し、その頃被控訴人等は控訴人に返地したことを認めることができる。被控訴人等は右解除契約は、昭和二十一年三月頃なされたのであつて、しかも地主である控訴人が被控訴人等に対し代替の山林を与えることを条件としたものであり、控訴人はこの条件を履行しないばかりでなく、随意条件を停止条件としたものであるから、本来無効であると主張し、成立に争のない乙第六号証に記載された和解によつて本件農地の小作契約がなお有効に存続することが確認されたのであると力説するのであるが、代替の山林を与えることを特に契約の条件としたことは、被控訴人等提出援用の証拠によつては、これを確認することができない。
成立に争のない乙第二号証同第五号証の二、同第六号証甲第十六号証によれば、昭和二十四年三月三十日当時被控訴人船山三男が泉村農地委員会及び栃木県農地委員会を被告として宇都宮地方裁判所に提起した農地買収請求の訴において、控訴人の長男朋友はこれに参加して裁判外において和解をし、本件農地は被控訴人船山三男に解放すること、その他の和解条項を定めたことを認められるのであるが、右和解が果して有効かどうかについてはしばらく措き、仮りに有効に成立したものであるとしても、この和解の成立したことは前記のように本件農地に関する小作契約が当事者の合意によつて解除されたことの認定の妨げとなるものではないのみならず、右和解は成立に争のない甲第十二、十三号証によつて認められるように、適法に解除されたものである。本件農地に関する小作契約は昭和二十年十月中に合意解約されたからには、農地調整法附則第三条を適用する余地がなく、従つてこれを争う被控訴人等に対し(被控訴人らは解約の日を昭和二十二年三月頃と主張するのであるから当然争う意思あるものと推定する)同条に基く賃貸借回復協議請求権のないことの確認を求める本訴請求は認容すべきものである。
しかしながら、被控訴人等に対し自作農創設特別措置法による遡及買収権の不存在の確認を求める請求は、つぎに述べる理由によつて棄却すべきものである。けだし本件農地が昭和二十年十一月二十三日当時小作地でないことは前記認定のとおりであるが、農地の買収計画を定めるのは市町村農業委員会であり、この農地買収計画に基いて農地を買収するのは政府であつて、個人に対し本件農地が小作地でないことを理由として遡及買収権のないことの確認を求める訴は、たとえその個人が自ら小作人と主張して現在又は将来市町村農業委員会に対し農地買収計画を定めるべきことを請求するものであつても、その個人との間に確定された法律関係の有無は、何等市町村農業委員会又は政府を拘束するものではなく、法律的には全く無意義であり、このような訴は確認の訴において要件とされる、いわゆる確認の利益を欠くものといわねばならない。従つて控訴人のこの部分の請求は失当である。
よつて原判決は本件農地につき遡及買収権の不存在確認の請求を棄却した点においては、その理由は不当であるけれども叙上の理由によつて正当であるから、この部分については控訴を棄却すべく、賃貸借回復協議請求権の不存在確認の請求を棄却した点は不当であるから、これを取り消すこととし、民事訴訟法第三百八十四条、第三百八十六条、第八十九条、第九十二条、第九十三条、第九十六条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 大江保直 岡咲恕一 猪俣幸一)